賃貸経営を始められる、あるいは既に行っているオーナー様にとって、「庭付きの戸建賃貸」は魅力的な選択肢であると同時に、少しハードルが高いと感じられるかもしれません。「入居者には喜ばれそうだけど、管理が大変なのでは?」「もしトラブルが起きたら…」そんな期待と不安が入り混じるのは当然のことです。
しかし、ご安心ください。庭が持つポテンシャルを正しく理解し、現実的な問題点に事前に対策を打つことで、庭はオーナー様の賃貸経営における「最強の武器」になり得ます。この記事では、オーナー様が抱える疑問や不安に寄り添いながら、庭付き物件のメリット・デメリット、そして現実的な管理のコツを一緒に考えていきたいと思います。

なぜ入居者は「庭」に惹かれるのか?
入居者が物件を探すとき、多くの物件情報の中から「おっ」と目を引くのが庭の存在です。それは単にスペースが広いというだけでなく、暮らしの夢を広げてくれるからです。その具体的な魅力を深掘りしてみましょう。
「自分だけの空間」を育てる楽しみ、ガーデニング
賃貸物件で「土いじり」ができるというのは、実は非常に贅沢なことです。プランターでささやかに始める家庭菜園から、季節の花を植える本格的なガーデニングまで、入居者は自分たちの手で暮らしに彩りを加えることができます。自分で育てた野菜をサラダに加えたり、摘みたてのハーブでお茶を入れたり。こうした小さな喜びが、物件への愛着を深めていきます。
オーナーとしての着眼点:ここでオーナー様がすべきなのは、「自由」と「ルール」のバランス設定です。入居者の「どこまでやっていいの?」という不安と、オーナー様の「勝手に大きな木を植えられたら困る」という懸念を解消するため、契約時に「樹木は基本NG、プランターの設置や下草がある場所に花を植える程度はOK」といったルールを明確に共有しましょう。これにより、双方が安心してガーデニングを楽しむ環境が整います。
集合住宅では叶わない、安心のびのび子どもの遊び場
ファミリー層にとって、これほど強力なアピールポイントはありません。マンションのベランダでは「水が下の階に漏れないかな…」「ボール遊びの音が響いていないかな…」と常に気を遣いますが、戸建賃貸の庭ならその心配は激減します。親の目が届く安全な場所で、子どもが泥んこになったり、シャボン玉を追いかけたりできる。こうした体験は、子どもの成長にとって何物にも代えがたい価値があります。
オーナーとしての着眼点:とはいえ、やはり「騒音」への配慮は必要です。トラブルを避けるため、例えば「平日の日中や休日の午後など、ご近所への配慮をお願いします」といった形で、入居時にお願いをしておくと良いでしょう。また、プライバシーと防音を兼ねて、隣家との境界にしっかりとしたフェンスや植栽を設けることは、オーナー様ができる有効な投資です。
太陽を独り占め!家事が楽になる洗濯物スペース
日々の暮らしの中で、このメリットを最も実感するかもしれません。家族分の洗濯物はもちろん、シーツや掛け布団といった大物も、天気の良い日に太陽の下で一気に乾かせる開放感。これは家事の効率を上げるだけでなく、気分も晴れやかにしてくれます。室内干しのジメジメした感じや、乾ききらないストレスから解放される生活は、入居者にとって非常に価値が高いのです。
オーナーとしての着眼点:一方で、洗濯物は生活感が出やすく、道路から丸見えになるのは避けたいと考える入居者も多いです。そこで、洗濯物を干すエリアにだけ、しっかり視線を遮ることができる高さの目隠しフェンスを設置したり、ラティス(格子状のフェンス)にツル性の植物を這わせて自然なスクリーンを作ったりといった工夫が喜ばれます。こうした小さな配慮が、物件の評価を大きく左右します。
オーナーが直面する3つの課題と対策
ここまでメリットを強調してきましたが、もちろん良いことばかりではありません。オーナーとして現実的に向き合わなければならない課題があります。しかし、これらは事前に対策を知っておけば、決して怖いものではありません。
現実問題①:植栽、雑草…管理方針で成否が決まる庭づくり
賃貸経営において最も悩ましいのが植栽の管理です。というのも、「賃借人に水やりを任せたら、大切な庭木が枯れてしまった」という事態は、残念ながら起こり得るからです。このリスクを前提に、植栽は「基本的に水やりをしなくても枯れない種類」を選ぶのが賢明です。その上で、オーナー様はご自身の物件をどのような方向性で運営していくか、最初に方針を定めることが極めて重要になります。
オーナーとしての着眼点:大きく分けて、以下の3つの方向性が考えられます。どの付加価値がマーケット(地域やターゲット層)とオーナー様の志向に合っているかを考え、最適なものを選択しましょう。
①『ローメンテナンス型』で手間を最小限に
植栽は乾燥に強く、手入れがほとんど不要な下草類(グラウンドカバーなど)に限定する方針です。これにより、オーナー様も賃借人も管理の手間と心理的負担から解放されます。コストを抑えつつ、緑のある環境を最低限維持したい場合に有効な選択肢です。
②『庭のDIY型』で自由度をアピール
「庭は自由に使って良いですが、退去時にはご自身で植えたものは撤去し、元の状態に戻してください」という原状回復を義務付ける方針です。ガーデニングが趣味の入居者にとっては非常に魅力的な条件となり、強力な差別化要因になります。ただし、原状回復の範囲を契約書で明確に定めておかないと、トラブルの原因になるため注意が必要です。
③『付加価値サービス型』で高い賃料を目指す
オーナー様が主導して緑豊かな環境を維持・提供する方針です。例えば、自動散水栓を設置した上で、年に2~3回は専門業者によるメンテナンスを入れ、常に美しい庭を保ちます。この管理コストを上乗せすることで、近隣相場よりも高い賃料設定を目指します。物件のグレード感を高め、質の高い入居者をターゲットにする場合に有効な戦略です。
現実問題②:「庭は死角?」と不安にさせない防犯対策
庭があると、建物への侵入経路が増えたり、植木が死角になったりするのでは、という防犯上の不安は当然あります。特に女性の入居者やファミリー層は、セキュリティを非常に重視します。
オーナーとしての着眼点:防犯対策は「コストをかけない工夫」と「投資」の両面から考えましょう。コストをかけない工夫としては、侵入の足場になりそうなものを置かない、見通しを悪くするような植木の剪定を定期的に行う、といったことがあります。そして、少し投資をするだけで効果絶大なのが、踏むと大きな音が出る「防犯砂利」や、人を感知して光る「センサーライト」です。これらは侵入者を心理的に躊躇させます。モニター付きインターホンへの交換も、入居者に大きな安心感を与え、結果的に物件の競争力を高める有効な投資となります。
現実問題③:「お隣さんと気まずく…」を防ぐ近隣トラブル対策
「落ち葉が隣の家にたくさん入ってしまった」「バーベキューの煙が流れて洗濯物に匂いがついたと苦情が来た」など、庭の利用が原因でご近所トラブルに発展するケースは残念ながら存在します。こうしたトラブルは、入居者の暮らしにくさに直結し、最悪の場合、退去の原因にもなりかねません。
オーナーとしての着眼点:重要なのは「入居者任せにしない」というオーナー様の姿勢です。まず、境界ブロックやフェンスを明確にし、枝などが越境しないよう定期的な確認と手入れを行いましょう。そして、入居者には契約時に、庭の利用について「夜間の騒音には配慮する」「強風時のバーベキューは控える」といった一般的なマナーを優しく伝えることが大切です。トラブルが起きた際の相談窓口を明確にしておくことで、入居者は安心して暮らすことができます。
それでも「戸建賃貸の庭」が強い理由
ここまで現実的な課題を見てきましたが、それでもなお、私たちは戸建賃貸において庭は非常に強力な武器だと考えています。なぜなら、これらの課題を乗り越えた先にあるリターンが非常に大きいからです。
「この家がいい」が続く、長期入居という最大のメリット
賃貸経営で最も避けたいのは「空室」です。庭で育んだ植物、子どもとの思い出、快適な家事動線。これらを通じて深まった物件への愛着は、簡単には手放せません。「庭があるから、この家に決めた」「この庭があるから、引っ越したくない」という声は、実際に耳にする言葉です。庭は、家賃の数千円の差よりも強い入居動機となり、長期入居を促します。これは、オーナー様にとって最も安定した収益確保に繋がるのです。
「貸す」だけでなく「売る」も見据えた資産価値
きちんと手入れされた庭は、物件全体の印象を劇的に良くします。これは、次の入居者募集の際に有利なだけでなく、将来、物件を売却することになった場合にもプラスに働きます。荒れ果てた庭の物件よりも、緑が美しい庭の物件の方が高い評価を受けるのは当然のことです。庭への適切な管理と投資は、目先の賃貸経営だけでなく、長期的な資産価値を守り、育てることにも繋がるのです。
まとめ:庭を「負債」でなく「資産」にする思考法
庭付き物件は、入居者にとって強力な魅力を持つ一方で、その管理方法がオーナー様の成否を分ける最大のポイントです。どのような庭にするか、その答えは一つではありません。
大切なのは、この記事でご紹介した選択肢の中から、ご自身の物件エリアの家賃相場や入居者層という「マーケットの需要」と、オーナー様ご自身がかけられる手間やコストという「オーナーの志向」を照らし合わせて、最適な方針を決定することです。
なんとなくで始めてしまうと、庭は管理が大変なだけの「負債」になりかねません。しかし、最初に明確な戦略を持って臨むことで、庭は長期にわたり安定した収益と高い資産価値を生み出す、かけがえのない「資産」へと変わります。まずはご自身の物件にどの方向性が合っているか、じっくり検討することからスタートしましょう。
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